国税の組織とそのこぼれ話(8)

今日は、大数観察についてお話しします。

大数観察とは、ある企業、ある個人商店の年間利益を少ない材料で推計しようという方法です。この方法は、国税当局の調査(特に現金商売業種に対して)において基本的に採られるやり方です。というか企業の収益性を判断するには、基本的に求められるスキルです。

それは、P/L(損益計算書)面とB/S(貸借対照表)面の両方に適用されます。

まず、P/L(損益計算書)面についてお話しします。端的には、荒利益率(売上総利益率)等の効率計算を利用する方法です。例えば、あるコーヒーショップを例にします。コーヒー一杯の売値が300円とし、また、その原価が30円とします。そうしますと、荒利益(売上総利益)は300円−30円=270円となり、荒利益率(売上総利益率)は270円÷300円=90%となります。そこで年間の材料仕入額が1,000万円としますと、年間売上高は1,000万円÷10%=1億円と推計されるわけです。また、荒利益(売上総利益)は1億円−1,000万円=9,000万円と推計されます。後、販売費及び一般管理費が5,000万円と仮定されれば、年間の利益額は9,000万円−5,000万円=4,000万円と推計するわけです。実際の申告額が1,000万円としますと、3,000万円位おかしいのではと推定されるわけです。

実際の調査では、主要な材料費のみ(上記の例ではコーヒー豆のみの効率計算)を使用するケースが多いでしょう。また、商品品目が多すぎる場合には「箸の使用量」を使うケースもあります。

また、荒利益率(売上総利益率)は業種、業態(卸売、小売の別)によってほぼ平均値が出ていますので、それよりも低いところが狙われるということになるし、その解明がキーになるわけです。一般な粗利益率は、喫茶店の場合は90%、中華料理店は70%〜80%、日本料理店は70%、小売店は20%〜30%、卸売業は10%というところがよく言われるところです。

次に、B/S(貸借対照表)面については、簿外の預金、貴金属、有価証券、保険証券の金融商品をはじめ、貸付金、土地建物の不動産等、借入金の返済、個人的な費消(例えば、遊興目的の海外旅行、個人的な外車購入、別荘地の購入)の把握がキーになります。皆さんが、「マルサの女」等で、査察官が調査先に踏み込むシーンを見られたことがあるでしょうが、それは正しくこの「簿外資産の把握」を目指したものなのです。

例えば、先程のコーヒーショップの例にしますと、1,000万円で申告をし、資産も1,000万円だったとしましょう。ところが、簿外の預金が1,000万円と簿外の不動産が1,500万円、個人的に500万円のベンツを購入していたとしましょう。先程のP/L面の検討で3,000万円の所得(税法上は利益のことを所得と言います)の過小があり、今B/S面でもそれに見合うものが(税務の世界では所得の処分形態が判明したといいます)存在する状態ですので、この金額で修正申告、あるいは更正決定(官側からの決定)することになります。

このようにP/L、B/S両面で正しい利益(所得)の把握に挑むのが税務当局の基本的スキルですし、このノウハウは企業の収益性を捕らえる点でも非常に有効ですので、皆さんも是非ご検討下さい。


(7)   ページトップへ  (9)