税務調査とそのこぼれ話(1)

今回から、現役の調査官として税務調査を行っていた時の体験、及び退官後税理士として逆の立場から税務調査に立ち会った経験を元に、お役に立つのではと思われる点を幾つかお話ししたいと思います。

今日は、内部牽制組織と不正行為です。

あるスナックを調査した時のことです。ひととおりの話を終え、調査に取り掛かりました。現金出納帳と現金残高をチェックしたところ残高が合いません。経営者に聞いたところ、最近金の管理をしていたマスターが辞めてしまい、現金の管理に問題があるということでした。伝票もマスターに任せていたのでよく分からないという返事でした。

伝票を調べたところ、最近6ヶ月の枚数が少なく、酒の仕入れに比べて売上が急速に落ちていました。店の従業員にマスターの生活振りを聞いたところ、ギャンブル好きで消費者ローンにも手を出し、最近は厳しい取り立てにも合っているようでした。そこでマスターに来てもらい追求したところ、毎日の伝票の内何枚かを無作為に破り捨て、その金を着服したと白状しました。

税法上はこのケースの場合、着服した売上金が売上脱漏となり修正申告が必要になります。また、同額をマスターに貸付けたことになりますので、そのままでは経費になりません。

ただもっと重要な事は、このような人任せにしたことによる経営上の問題です。売上金と伝票をある特定の人間に任せると言うことは、ある面では「どうぞ盗ってください」と言っているようなものです。「人を見たら泥棒と思え」とは言いませんが、不正を働けるような状態を放置すること自体経営者として非常に問題です。たとえその人が良識の人だとしても、その配偶者や家族がまともな人という保証はありません。野村監督のケースもありますからね。

このような場合、売上金と伝票は別々の人に管理させるべきです。また、なるべく仲の悪い、あるいはライバル関係にある人を選ぶべきです。それと時々担当するポジションを変えるべきです。銀行員や税務職員が3年で転勤するのは、はっきり言って癒着による不正を防止するためなのですから。

このようなお互いに監視し合う、牽制する関係に置くことを内部牽制組織の確立と呼びます。組織の基本はこの内部牽制組織の確立から始まるのです。

ただ、税務調査の現場では、経営者自らが伝票の改ざん、レジペーパーの打ち直し等を行い、仮名預金や家族名義の預金で隠していることも見かけられます。このような場合には、せっかく立派な内部牽制組織を確立していても無意味です。分かり易く言いますと、従業員の人は公正で立派な人でも、経営者がうさん臭い人なら会社自体信用できませんよということです。

この税務調査という文字を、初めて取り引きするケースの信用調査、あるいはご自分の会社の組織の見直しと置き換え、是非チェックされてはいかがでしょうか。


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