国税の組織とそのこぼれ話【業種編】(5)

今回は、「歯科医師業」です。

歯科医師業と言いましても専門科目は外科とか内科とか色々ありますが、今回は自由診療部分が多く、一般になじみの深い歯科医さんを取り上げます。

今日、社会保険制度の危機的状況から医療費の抑制は避けようがなく、お医者さんの業界も一時の開業すれば必ず儲かるというものではなくなっています。しかし、他の業界に比べればまだまだ優位性はあるように思えます。

さて、このような歯医者さんをどのように調査するのでしょうか。

まず、カルテを見せてもらえるよう交渉します。カルテは治療の際に必ず作成される物ですので、カルテを見ればまず全貌が分かるのです。ただ、税務署に対する感情の関係で、素直に見せてもらえるケースと、この人という限定であれば見せてもらえるケース、どうしても見せてもらえないケースに分かれます。前2者の見せてもらえる場合ですと比較的スムーズにいきますが、見せてもらえないケースですと預金帳とか、資料せんとか、BS面の検討からとか時間が相当かかります。

まあ、大体の先生はカルテを見せてもらえるので、その治療内容ごとに治療費が計上されているか検討します。ブリッジだと何万円とか標準価格がありますので、それよりも安いと簿外でもらっていないか検討します。また、初回の診療費が計上漏れになっているケースとか、何回も治療しているケースでは中間にもらった治療費を除外していることがあります。一般に彼らの現金管理は、ズバリ言ってしまいますと「いい加減」です。ずいぶん昔のことですが、ある土曜日の午後、調査ではなく治療である外科医のところに行ったことがありました。治療が終わって治療費として「1万円」を支払ったところ、その先生は机の中に現金をそのまま入れました。その時見えたのは、机の中の20万以上の無造作に置かれた現金でした。更に、その時入ってきた看護婦さんが、「先生、お昼ですが何か弁当でも買ってきましょうか?」と言ったのですが、先生は無造作に机の中から1万円を看護婦に渡したのです。私が税務職員であることも知らず無意識にそうしたのでしょうが、現金管理の欠如と、事業とプライベートの区別の無さにはびっくりしてしまいました。しかも、その先生は近所でも名医の誉れも高い方で、病床も100床近くあり、地区の医師会会長までされていた方でした。それ以降、私は現金管理のチェックと簿外預金、家事関連費をより精査するようになりました。

今の売上の管理があいまいという方は、経費の方もあいまいです。従って、家族だけとか仕事以外の友人との飲食、服飾、プレゼント、ゴルフ、旅行等が相当経費に混入しています。これらは、百貨店とかブティックで購入するケースが多いので、個別に全て反面します。

また、金を治療材料として仕入れますので、これを自分のための指輪にするとか、相場が上がってきたときは、転売してその売上を除外するケースもあります。


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